コロンブスの新大陸への上陸をきっかけに、ヨーロッパへ持ち込まれた「たばこ」ですが、特に注目されたのは"薬草"としての効能でした。
当時、ヨーロッパの各国は、疫病や食糧難に苦しめられ、病を治す薬を切実に求めていたのです。そこへ、新大陸へ渡った多くの探検家たちが"先住民が「たばこ」を薬として使用している"との報告を寄せたため、「たばこ」にスポットが当たりはじめます。なかでもスペイン在住の医師であるニコラス・デ・モナルデスが著した「たばこ」に関する1冊の書物は注目を浴びました。
モナルデスは情報を丹念に収集して「たばこ」を栽培し、1571年に『西インド諸島からもたらされた有用医薬に関する書 第二部』を出版します。このなかで彼は「たばこ」を万能薬と位置づけ、新大陸の先住民の使用法や、その薬効などを事細かに解説し、推奨しました。
これがヨーロッパ各国で翻訳されてベストセラーとなり、以後、この書物は「たばこ」の万能薬信仰のバイブルとして、影響を持つこととなったのです。
モナルデスの著書が発表された頃、スペインでは自国の植民地内での「たばこ」の栽培が盛んになります。これはスペインが、現・メキシコの中央部に栄えたアステカ王国と、ペルー・ボリビア・エクアドルを中心に栄えたインカ帝国を征服したことに端を発します。
当時のスペインは、国王が絶対的な権力を握る絶対王政の時代であり、王室は植民地が自国にもたらす莫大な富を求めていました。なかでも、薬草としても注目を集める「たばこ」は重要な産物の1つであり、スペインは、資源の豊富な南米の各地を次々と植民地化し、現地で盛んに「たばこ」を栽培させます。
こうしてスペインは、イギリスが台頭しはじめる16〜17世紀前半まで、世界の「たばこ」貿易を独占することになったのです。